UI(尿もれ)の悩みは患者さんそれぞれに違う

私は10年前に、故郷である佐賀県武雄市で「なかおたかこクリニック」を開業し、泌尿器科診療を行っています。近年特に「女性泌尿器科」という分野が注目されています。UI(尿もれ)や頻尿、骨盤臓器脱など、QOL(Quality Of Life)を左右する疾患について、患者さんの悩みをお聞きし、診療しています。

患者さんによって、UIの悩みはさまざまです。「薬を飲んで、もう少しもれを軽くしたい」という方もいますし、「尿もれパットをずっと使っていますが、このままでいいんでしょうか?」と心配されて受診される方もいます。「ずっと悩んでいるけれど、どうすればいいかわからない」という方も。中には「その都度、下着を履き替えています。外出するのが億劫になってしまって…」という方もいらっしゃいます。こういった患者さんのように、ケア製品を使うこと自体に想像が至らない、という方もいるようです。

■なるほど。患者さんは、UI(尿もれ)ケア製品について、どんなイメージを持たれていると感じていらっしゃいますか。

UI(尿もれ)ケア製品に対する考え方は、人それぞれです。まったく抵抗なく使っている方もいますし、「おむつみたいでちょっと…」と抵抗を感じる方もいます。また、「パットを使うなんて私にはありえないわ」などと、使用を極端に嫌がる方もいます。価値観の個人差もありますが、私は世代による差も大きいのではないかと感じています。

若いころに生理用ナプキンを当たり前のように使ってきた世代は、UIケア製品も抵抗なく使える人が比較的多い気がします。各社からさまざまな製品が出て、CMなどでもオープンに宣伝するようになったことで抵抗が少なく、自分に合うものを選んで、使うことに慣れているのでしょう。

生理用品の使用経験のある世代でも、UI専用のケア製品となると、「おむつ」のようなマイナスイメージを持つ方も少なくありません。UIに悩んでいても「おむつを買うほどではない」「買いに行くところを見られたくない」といった羞恥心から使用を躊躇してしまったり、生理用ナプキンで代用したりというケースも聞いたことがあります。

さらに、それよりもっと上の世代、たとえば80代以上の方などは、そもそも生理用ナプキンを使った経験がない世代かもしれません。馴染みのないナプキンやUIケア製品に対して、「買うことが恥ずかしい」「隠すべきことだ」という認識の方も多くいらっしゃいます。

世代にかかわらず、こうしたデリケートな悩みは周囲に打ち明けづらく、好ましくないケア方法を無意識のうちにしてしまっている方もいらっしゃいます。

正しく使って快適に UIケア製品の使い方

■「好ましくない使い方」とは、具体的にどんな使い方でしょうか?

UI(尿もれ)専用のケア製品を使う際、「パットから尿がもれてしまうのではないか?」と心配して、二枚重ねて貼り付けている方がいました。また、下着にUIケア製品を貼り付けつつも、トイレットペーパーやティッシュを間に挟んでおくという方もいます。「パットを毎回交換するのはもったいないから、トイレットペーパーだけを交換して、パットは一日一枚程度しか使わない」といった、独自の使い方をされていました。ただ、トイレットペーパーは水分を含むとボロボロになって肌に貼りつくため、かぶれの原因になりがちです。UIによる痒みやかぶれで悩んでいる方に話を聞くと、トイレットペーパーを当てている方が一定数いて、「今後はトイレットペーパーはやめてくださいね」とアドバイスしています。

今、UIケア製品はバリエーション豊かで、困りごとや使うシーン、失禁量に合わせてさまざまな種類があります。サイズもたくさんあって、患者さんそれぞれの悩みに寄り添ってくれるラインアップです。それを患者さんに知ってもらうために、「こんなにいいものがあるんですよ」「ケア製品を正しく使えば快適に過ごすことができますよ」と、丁寧にお伝えしています。使用を躊躇している人にこそ、「UIケア製品は、立派な解決法のひとつです」と伝えることを意識しています。

■ UI(尿もれ)ケア製品は、立派な解決法のひとつ、なんですね。

はい。その通りです。

UI(尿もれ)の原因は数種類あり、もちろん患者さんによって異なります。それだけでなく、患者さんそれぞれ、UIに対する考え方も違います。原因によって治療法も違いますし、その症状がどこまでコントロールできるか?も、異なります。完全に失禁のない状態にすることもできれば、ある程度もれが残った状態までしか解決できないこともあります。まずは患者さんにそのことをしっかりと説明したうえで、ご本人が「UIをどう解決したいのか」にしっかり耳を傾けることを心がけています。

もちろん、手術を受けて完治を目指したいという患者さんには手術を提案しますし、薬の服用が必要な方へは処方もします。でも、治療法はそればかりではありません。UIケア製品を使うことで悩みが軽減するのであれば、少ないリスクでQOLが上がる方法だと思っているので、抵抗がない人にはまずそこからおすすめしています。

私たちは医者なので、手術や薬で「治す」ことにこだわりがちですが、手術には合併症、服薬には副作用の心配が少なからずあります。そうしたリスクとベネフィットを、どう天秤にかけていくか?を、患者さんとお話しながら考えることが、UI治療には必要だと考えています。

UIケア製品はコストこそかかりますが、手術の合併症や、服薬の副作用が起こることはありません。その後どんな治療法を選ぶとしても、まずはUIケア製品とうまく付き合っていくことが、快適に過ごすことへの近道だとお伝えしています。

患者さんの生活の質が 向上するような治療を

■先生が治療の際に、患者さんとのコミュニケーションの中で大切にしていることを教えてください。

UI(尿もれ)や、頻尿に対する悩みが人それぞれ違うように、治療のゴールも、一人ひとり異なります。まずは、その人のゴールを理解して、達成できるところからひとつずつ寄り添っていきたいと日々思っています。

そもそも、私が泌尿器科医になったのは、学生実習のとき、ある女性患者さんの紹介状に「女性医師希望」という文字を見つけたことがきっかけでした。それまで、泌尿器科と言うとどちらかというと男性の患者さんが多いイメージでしたが、切実な悩みを抱えた女性が「できれば女性の先生に診てほしい」と願っていることを知ったとき、私にもできることがあるのではないかと思い、泌尿器科医の道へ進みました。実際に今、女性泌尿器科医を求めて受診してくださる患者さんも多く、この道へ進んでよかったと思っています。

UIは「QOL疾患」です。患者さんの満足度を上げ、より良い生活を送るための大切な治療です。症状が改善したり、快適に過ごせるようになることで、心が晴れやかになり、外出しやすくなったり、日々が気持ち良く過ごせたりと、日々のQOLが大きく変わります。その患者さん一人ひとりとよくお話して、「どうしたいか」を理解し、手の届く目標やゴールを一緒に考えながら、「前よりよくなりましたね」という喜びと実感を共有していける、そんな医師でありたいと思っています。

■最後に、先生の今後の展望を教えてください。

最近、UI(尿もれ)ケア製品のCMも増え、少しずつオープンに話せる時代になってきたように感じていて、私はとても良いことだと思っています。今は10代でUIに悩む方もいらっしゃいますし、もっとオープンに、当たり前のこととして話せる世の中になっていったらいいなと思っています。

私のクリニックにも、遠方からわざわざ通っている方もいます。「先生のところに来て本当によかった」と言ってくださる患者さんもいて、とても励みになります。これからも、患者さんと向き合い、さまざまな発信をしていくことで「おしっこのことで困ったら、泌尿器科へ行く」という文化をつくっていきたいと思っています。このクリニックが、地域にとってそんな存在になれるよう、これからもより良い医療を提供していきたいと考えています。

■本日は、貴重なお話をお聞かせくださり、ありがとうございました。

女性泌尿器科医 中尾先生に訊く UIケア専用品 Q&A

自分に合ったUIケア製品選び方は?

いろいろな種類のものがあるので、いろいろ使って試してみて、肌に合うものを選んでみてください。肌あたりやかぶれにくさなど、相性の良い・悪いがあると思います。生理用ナプキンを選ぶときと一緒ですね。

「30cc」など“量”の選び方がわかりません

おりものシートほどの薄さで事足りている人は、15ccなどの少量タイプからで良いと思います。在宅時とおでかけのときで使い分けるのも手です。まず一度どれか試してみると、自分に合うサイズがわかると思います。

UIケア製品とどう付き合っていけばいい?

どんな治療を選んだとしても、ベースラインとして「ケア製品と上手にお付き合いしていこう」という思いを持ってほしいと思っています。きっと気持ちも楽になりますし、デリケートゾーンを清潔に保つことができます。

中尾先生からウィスパーヘメッセージ

私は、ウィスパーの生理用ナプキンにお世話になってきた世代です。いろいろな製品がどんどん出てきたあの時代、「こんなナプキンがあったらいいな」と思うものを、P&Gさんが出してくださっていた記憶がありますし、ウィスパー製品を通じて、企業努力もひしひしと感じていました。

製品が確かなものであろうという強い信頼感を、当時の生理用品はもちろんですが、今のUIケア製品にも感じている、ウィスパーは私にとってそんなブランドです。

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(プロフィール)

なかおたかこクリニック  院長 中尾孝子先生

佐賀県武雄市朝日町出身。佐賀医科大学(現・佐賀大学医学部)卒業後、佐賀大学医学部泌尿器科入局。原三信病院泌尿器科、国立病院機構 九州医療センター、修腎会 藤崎病院、佐賀大学泌尿器科助教を経て現職。日本泌尿器科学会専門医。日本泌尿器科学会指導医。