監修:一般社団法人 日本介護協会 理事長 平栗 潤一
【介護協会監修】介護の専門家に聞きました! 尿トラブルのアドバイス
「1日に何度もトイレに行きたくなる」「尿がもれて恥ずかしい」「夜間にトイレに起きる」など、尿に関するトラブルで困っている人は少なくありません。QOLの低下など、日常生活に大きな影響を与える排尿障害について、介護の専門家にお話を伺いました。
高齢者に多い頻尿の原因とは
一般的に正常な排尿とは、1日当たり5~8回、日中の間隔は3~5時間といわれています。頻尿で悩む高齢者は多く、中には1日10回以上、10分おきにトイレに行ったりする場合も。頻尿には様々な要因がありますが、介護の現場では次の2つが多い傾向にあるようです。
①膀胱に疾患等の問題がある
ウィルスや細菌による「膀胱炎」や、膀胱が敏感になる「過活動膀胱」など。
②心理的な頻尿(心因性頻尿)
過去の排泄の失敗からくる不安感や、トイレがない場所での尿意など、いろんな原因が考えられます。環境が大きく影響するため、原因にあたる要素をしっかりと分析する必要があります。
頻尿による高齢者のリスク
尿トラブルで気をつけたいことのひとつとして、水分量の誤調整があります。排尿を減らすためには水分摂取を制限することも有効ですが、高齢者では脱水症の危険性が高くなります。逆に水分を取りすぎると、日中や夜間のトイレの回数が多くなってしまいます。夜間にトイレに行く回数が増えれば、転倒や骨折などのリスクも高まるため、注意が必要です。そのため介護施設では、日中はトイレを使用し、夜間のみ介護オムツやポータブルトイレを使うこともあります。
楽しく歩いて筋力アップ!
厚生労働省が2019年に発表しているデータによると、日本人の1日あたりの平均歩数は成人男性が6,793歩、成人女性が5,832歩です※1。しかしここ1〜2年で、外出の機会が減り、さらに平均歩数は減少していると考えられます。高齢になるにつれて筋力が低下すると、ちょっとしたことでも転びやすくなります。転倒を未然に防ぐためにも、予防に効果的なウォーキング(散歩)や体操を生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。
「歩く」ということは、筋力アップはもちろん、高血圧、糖尿病などの生活習慣病の予防・改善にもつながります。街の風景や自然を楽しみながら歩けば、気分転換ができ、食欲や睡眠などにも良い効果をもたらします。
また、ただ歩くだけではなく、姿勢を整え、正しい歩き方を身に付ければ、筋肉に刺激を与え、血液のめぐりも良くなります。上半身を真っすぐに保ち、横から見たときに耳・肩・腰・骨盤が一直線になるのが理想のフォーム。いい姿勢で適度な歩行をすることはADLを保つ※ためにも非常に重要です。ただし腰や膝が悪い人、脳卒中などと診断されている方は、かかりつけの医師に相談してください。
※ADLとはActivities of Daily Livingのことで、Aはアクティビティー(動作)、DLはデイリーリビング(日常生活)の意。具体的には「歩行・階段の昇り降り・トイレ・入浴・食事・着替え・身だしなみ」など、日常生活を送るために最低限必要な能力のことをいいます。分かりやすく表現すると「自分で生活できる力」のことで、経済力以外の身体動作・認知能力・コミュニケーション能力のことを指します。 ADLについての記事を読む
※1 参考文献 厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」(2019年)
日常生活にトレーニングを取り入れよう
骨盤底筋は、子宮や膀胱、直腸など骨盤臓器を支えるハンモックのような役割を果たしています。骨盤底筋を強化するにはケーゲル体操やスイッチトレーニングが有効ですが、スクワットやバードドッグといった筋トレを行うのも効果的です。スクワットは下半身の筋トレや血流改善にもつながり、排尿の力をアップさせます。下半身を鍛えることで歩行能力も向上します。負荷をかけすぎたり、誤った姿勢で行うと、ひざや股関節を痛めたりする可能性がありますので、最初は壁や椅子に手を添えて負荷を軽減した状態から行うことをおすすめします。
骨盤底筋トレーニングや骨盤底筋強化の方法については、それぞれの記事をご覧ください。
排尿日誌」を付けてみませんか
健康状態を知る上で重要なことは、日頃の習慣を記録しておくことです。「排尿日誌」を使って、排尿のタイミングや色、量、痛みの有無や、摂取水分量などを記録しておきましょう。医師が診察・診断する際にも役立つ資料となります。
最近ではスマホによるアプリも登場し、より手軽に記録できるようになりました。
ほかにも膀胱の水分量を読み取って排泄のタイミングを予測する、排尿予測デバイスなどもあります。
UI(尿もれ)は多くの方が経験すること。ポジティブに考えてみましょう
尿トラブルは誰にでも起こりうることです。誰かがUI(尿もれ)になった場合でも「そんなこともあるよ」と前向きな気持ちで接しましょう。
介護の現場に精通している平栗潤一さんに実際にあったお話を聞かせていただきました。
お茶が大好きなAさん(72歳・女性)の場合
昔からお茶を飲みながらお話しすることが大好きなAさんは、ある日、家の近くのカフェでいつも通り友人と楽しく談笑していました。
Aさんが紅茶に砂糖を入れようとすると、砂糖が床に落ちてしまいました。拾おうとかがんだ瞬間、腹部が圧迫され、Aさんは尿もれをしてしまいました。スカートまで濡れているか気になり、トイレに駆け込みました。スカートは濡れていなかったため、下着だけ脱いで洗っていると、近づいてきた友人に「あらやだ、おしっこもらしちゃったの? 恥ずかしいわねー」と大きな声で笑われてしまいました。とても落ち込んだAさんは、その後、家の中に引きこもってしまい、お茶会に参加することはありませんでした。
心配したAさんのご家族が、介護施設で開催している認知症カフェ(オレンジカフェ)※2に参加し、「尿もれがきっかけで引きこもりになってしまった」と相談されたため、次の認知症カフェにAさんを連れてお越しいただくことになりました。
参加されたAさんの第一声は「私はおもらしする恥ずかしいおばあちゃんです」でした。「尿もれは誰にでも起こることで、恥ずかしいことではありませんよ」とお伝えすると、少し元気になられました。Aさんはその後、下半身を中心とした簡単なトレーニングを行う健康体操教室に参加。そのことが自信につながり、今ではお茶会に復帰して以前のように友人と楽しく過ごされています。
※2 認知症カフェ(オレンジカフェ)……認知症の方やそのご家族、介護・医療の専門職、地域の方など、誰でもが気軽に参加でき、安心して過ごせる集いの場所。市区町村や地域包括支援センター、社会福祉協議会、介護事業所、医療機関、NPO法人、喫茶店などによって運営され、基本的に誰でも開催することができる。
健康状態を知る上で重要なことは、日頃の習慣を記録しておくことです。「排尿日誌」を使って、排尿のタイミングや色、量、痛みの有無や、摂取水分量などを記録しておきましょう。医師が診察・診断する際にも役立つ資料となります。
最近ではスマホによるアプリも登場し、より手軽に記録できるようになりました。
ほかにも膀胱の水分量を読み取って排泄のタイミングを予測する、排尿予測デバイスなどもあります。
UI(尿もれ)は多くの方が経験すること。ポジティブに考えてみましょう
尿トラブルは誰にでも起こりうることです。誰かがUI(尿もれ)になった場合でも「そんなこともあるよ」と前向きな気持ちで接しましょう。
介護の現場に精通している平栗潤一さんに実際にあったお話を聞かせていただきました。
お茶が大好きなAさん(72歳・女性)の場合
昔からお茶を飲みながらお話しすることが大好きなAさんは、ある日、家の近くのカフェでいつも通り友人と楽しく談笑していました。
Aさんが紅茶に砂糖を入れようとすると、砂糖が床に落ちてしまいました。拾おうとかがんだ瞬間、腹部が圧迫され、Aさんは尿もれをしてしまいました。スカートまで濡れているか気になり、トイレに駆け込みました。スカートは濡れていなかったため、下着だけ脱いで洗っていると、近づいてきた友人に「あらやだ、おしっこもらしちゃったの? 恥ずかしいわねー」と大きな声で笑われてしまいました。とても落ち込んだAさんは、その後、家の中に引きこもってしまい、お茶会に参加することはありませんでした。
心配したAさんのご家族が、介護施設で開催している認知症カフェ(オレンジカフェ)※2に参加し、「尿もれがきっかけで引きこもりになってしまった」と相談されたため、次の認知症カフェにAさんを連れてお越しいただくことになりました。
参加されたAさんの第一声は「私はおもらしする恥ずかしいおばあちゃんです」でした。「尿もれは誰にでも起こることで、恥ずかしいことではありませんよ」とお伝えすると、少し元気になられました。Aさんはその後、下半身を中心とした簡単なトレーニングを行う健康体操教室に参加。そのことが自信につながり、今ではお茶会に復帰して以前のように友人と楽しく過ごされています。
※2 認知症カフェ(オレンジカフェ)……認知症の方やそのご家族、介護・医療の専門職、地域の方など、誰でもが気軽に参加でき、安心して過ごせる集いの場所。市区町村や地域包括支援センター、社会福祉協議会、介護事業所、医療機関、NPO法人、喫茶店などによって運営され、基本的に誰でも開催することができる。
尿トラブルは誰にでも起こりうること。UI(尿もれ)などを経験しても、必要以上に落ち込まないことが大切です。また誰かが我慢できずUI(尿もれ)をしてしまった場合も、その方の不安な気持ちやつらさに配慮し、サポートすることが大切です。
また尿トラブルの原因を探る上では医療機関を受診すれば改善することも多くあります。まずは専門医に相談するとよいでしょう。
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(プロフィール)
一般社団法人 日本介護協会 理事長 平栗 潤一
大手介護専門学校にて12年にわたり約2,000名の人材育成に関わった後、独立。その後、介護業界の発展を目指し「介護甲子園」を主催する一般社団法人 日本介護協会を設立、2020年3月より理事長に就任。有限会社ケアステーション大空の代表取締役として、グループホームやサービス付き高齢者向け住宅など介護施設を運営し、高齢者がいきいきと安心して暮らせるための支援を行っている。